不良債権を処理してバランスシートを改善する方法
コラム
不良債権は、企業の経営と切っても切れない関係です。
あなたの企業でも不良債権が発生して、処理に困った経験があるのではないでしょうか。
この記事では、不良債権とバランスシートの関係や、不良債権を回収する方法などを解説します。
不良債権を適切に処理できるようになるので、ぜひ最後までご覧ください。
この記事は20年以上金融サービスを提供してきたソモ㈱が執筆しています。
目次
不良債権とバランスシートの関係
不良債権とは、売掛金や貸付金などの債権のうち、返済が遅れたり、返済不能となっている債権です。
日本ではバブル崩壊により倒産する企業が急増して、多額の不良債権が発生しました。バブル崩壊後も不良債権残高の増加が進み、2021年3月期には約32.5兆円と過去最高になりました。
その後、政府や日銀・民間の金融機関の取り組みにより、不良債権は減少傾向にあります。
一般企業においても、不良債権と経営は切っても切れない関係です。
取引先の倒産により不良債権が発生しても、適切な処理をしなければ、バランスシートに資産として計上されてしまいます。
その結果、資産は多くても自由に使える資金が少なく、経営判断を誤らせてしまう可能性があります。
また、金融機関から融資を受ける際も、不良債権はチェックされるので注意が必要です。
不良債権の具体例
不良債権には、売掛金や貸付金などが該当します。
ここでは、不良債権の具体例を解説します。
売掛金
売掛金とは商品やサービスを販売した際に、代金を将来的に回収する権利です。
商品やサービスを引き渡しているのに、代金を回収できなくなると不良債権となります。
貸付金
貸付金とは、期日までに返済してもらう約束で貸し付けたお金のことです。
貸付金のうち、回収できなくなった金額は不良債権となります。
立替金
立替金とは、得意先や従業員などの代わりに、一時的に立て替えて支払ったお金のことです。
例えば、取引先の代わりに支払った運送費や、役所などへの申請費用などが挙げられます。
従業員の旅費や交通費など、将来的に経費となるものは、不良債権にはなりません。
未収入金
未収入金とは、本業以外で発生した一時的な取引において、後から売却代金を回収する権利です。
例えば、固定資産や有価証券などを販売した際の債権が未収入金となります。
未収入金のうち、未回収のリスクがあるものは不良債権に分類されます。
その他
その他にも、未回収リスクのある、以下のような取引が不良債権に該当します。
・ファイナンスリース取引のリース債権
- 損害賠償金
- 先日付小切手
- 建設業界の工事未収入金
不良債権を回収する方法
不良債権が発生したら、迅速に適切な対応をすることが大切です。
ここでは、不良債権を回収する方法について解説します。
督促をする
入金期日を過ぎても支払いがない場合は、すぐに相手に連絡を取り、いつ入金されるか確認しましょう。通常は、振込みを忘れていたなどの理由で、すぐに支払いをしてくれます。
ただ、経営状況の悪い企業は、支払い能力がないため、期日を延ばしてほしいと言われることがあります。
どうしても支払ってもらえない場合は、請求額の一部だけの支払いや、分割での支払いを提案しましょう。期日だけ延ばしてしまうと、一向に支払いがされず、最終的に不良債権となってしまうので注意が必要です。
内容証明郵便で通達する
督促をしても支払いがない場合は、法的手段に出る前に内容証明郵便を送ります。内容証明郵便とは、郵便局が以下の内容を証明してくれるサービスです。
- 差出人
- 宛先
- 内容
- 差出日
内容証明郵便で通達することにより、裁判になった際の証拠を残せます。また、内容証明は、債権の時効を6ヶ月延長できる効果もあります。
民事調停を申し立てる
民事調停とは、裁判所が当事者の間に立ち、話し合いながら問題を解決する手続きです。裁判よりも手続きが簡単で、問題が比較的早く解決するメリットがあります。
内容証明は、郵便局で簡単に送ることができます。しかし、後々の裁判まで見据えると、弁護士や司法書士などの専門家に作成してもらうといいでしょう。
裁判を申し立てる
ここまでの方法で債権を回収できない場合は、裁判を申し立てます。
債権者の主張が認められると、債務者に対して支払い命令の判決が下されます。債務者が支払い命令に従わなければ、差し押さえも可能です。
また、訴額が60万円以下の場合は、少額訴訟を選べます。少額訴訟は基本的に1回の審理で判決が言い渡されるため、通常の裁判よりもスピーディーに問題解決が可能です。
バランスシートの不良債権比率とは
経営状態の健全性を表す指標として、「不良債権比率」があります。
不良債権比率とは、自社が保有している債権に占める不良債権の割合です。不良債権比率は、以下のように求められます。
不良債権比率=(不良債権の合計額÷債権の合計額)×100
不良債権比率が何%になると危険なのかは、企業ごとに異なります。キャッシュフローの健全性は、毎月の固定費や債権額など、さまざまな要因により判断する必要があるためです。
自社にとって不良債権比率が何%を越えたら危険水準になるのか、自社のキャッシュフローを考慮して考えてください。
不良債権を回収できないケース
債務者の支払い能力がない、債権が時効になっているなどの場合は、不良債権の回収は難しいです。
ここでは、不良債権を回収できないケースを解説します。
時効となっている
債権には時効があり、時効が到来すると請求ができなくなります。債権の時効は、発生日により期間が異なります。
- 2020年4月以降に発生:支払期限から数えて5年
- 2020年3月以前に発生:支払期限から数えて2年
時効が近づいた場合は、時効中断措置をすることで、債権が消滅するのを防げます。時効中断措置とは、以下のような行動を指します。
- 訴訟を起こす
- 支払督促をする
- 民事調停を申し立てる
- 債務者に債務を承認してもらう
- 債権の一部を返済してもらう
不良債権が発生して何も行動をしないと、時効となり債権を失ってしまいます。時効が近づいてきたら、専門家に相談するなどして、時効中断措置をとりましょう。
支払能力がない
債務者に支払い能力がない場合、ないものを取ることはできないので回収は難しいです。
債務者に余裕があるうちに、少額でも支払ってもらうように働きかけましょう。また、販売した商品が相手方に残っているのであれば、商品を回収するのも一つの手です。
支払い能力がない債務者は、時間が経つと状況は悪くなるばかりです。早めに行動をして、なるべく傷口を広げないようにしてください。
経営破綻している
債務者が倒産してしまうと、債権の回収は難しいです。
法人が倒産した場合、債権者が複数いることがほとんどです。債権者が複数いると、自分が保有している債権の額により取り分が決まります。
もともとの債権額の数%しか取り戻せないケースも多く、全額の回収は難しいと考えましょう。
まとめ
企業を運営していると、取引先の破綻などで不良債権は発生してしまうものです。
不良債権は、バランスシート状では健全な債権と一緒に記載されます。債権を多く保有していても不良債権の比率が多いと、見た目よりもキャッシュフローは悪くなります。不良債権により、経営判断を間違えないように注意してください。
不良債権の具体例は、売掛金や貸付金・立替金などがあります。不良債権を増やさないためには、何が該当するのかを把握して、早めに行動することが大切です。
不良債権が時効を迎えたり、債務者が経営破綻すると回収は難しくなります。法律の専門家に相談しながら、少しでも回収できるように行動しましょう。